ヘリコプターの種類
2018年9月5日
広大な発着場を必要とせず、複雑な行動が可能であるヘリコプターは、様々な用途に応用の効く航空機です。地形を選ばないその機能により、移動や輸送の手段として重宝されてきました。
日本でも会員制ヘリポートが登場するなど、ヘリコプターは身近な存在となりつつあります。この記事ではヘリコプターの免許取得を検討されている方のため、代表的なヘリコプターの特徴や速度などの性能、代表的な機種などについて解説します。
ヘリコプターの構造や特徴と基礎的な性能
ヘリコプターの特徴は、何と言ってもその自由自在な動きです。これが可能となるのは、ヘリコプターの構造そのものに理由があります。ヘリコプターの構造で特に目立つものは、メインとテール2つのローターです。
ヘリコプターはメインローターに取り付けられた大きな翼(ブレード)を回転させることにより揚力を得ます。このときブレードが一定の方向に回転すると、機体は作用反作用の法則により、そのままではブレードとは逆の方向に回転を始めてしまうのです。そこでテールローターにより逆方向の力を作り出し、姿勢を安定させています。逆に言えば、このテールローターを利用することで、360度すべての水平方向に機体を回転させることが可能です。
そして、メインローターの回転面は自由な方向に傾けることができます。この仰角を生み出すことで、揚力と重力のバランスを操作し、前進後進はもちろん、他の航空機ではまねのできない垂直上昇、垂直下降やホバリングを実現しているのです。メインローターのローターヘッドの形状によっては、ループと呼ばれる宙返り運動も行うことができ、各国の航空祭や航空ショーで曲芸飛行の妙技が披露されることもあります。
航空ファンの間では、スペイン空軍の教官飛行隊、Patrulla ASPAが有名です。しかし、このバランスによる推進力の獲得は、その反面として飛行速度の限界をもたらします。2018年現在でも、ギネスブックに記載されているヘリコプターの最速記録は、ウエストランド社(イギリス)の”リンクス”が改造を施されたうえで、1986年に記録した時速400.87kmです。一般的なヘリコプターの最高速度は、時速300km程度となります。
民間で活躍するヘリコプターの用途
民生用ヘリコプターの用途は非常に幅広く、多種類の汎用ヘリコプターが様々な形で使用されています。
まずは自家用ヘリコプターです。日本ではまだ馴染みの薄いものですが、国土の広大なアメリカでは、自家用車と同じように手軽な移動手段や趣味の遊覧飛行用として所有する人も少なくありません。特に交通量が多く、超高層ビルが立ち並ぶ都心部では、屋上のヘリポートからヘリポートへと発着することで、地上の混雑を避けたスムーズな移動が可能となるという大きなメリットがあります。日本でも大企業では自社用ヘリコプターを所有していることが少なくないのです。
自社用ヘリコプターとしてイメージされる代表的なものとしては、新聞社やテレビ局の報道ヘリをあげることができます。一定以上の高速で移動し続ける必要がある他の航空機と異なり、ヘリコプターは低速飛行やホバリングが可能です。事件や災害の現場で、状況をつぶさに伝えるためには、ヘリコプターに変えられるものはありません。
ホバリングと言うヘリコプターならではの性能は、農業にも役立てられています。種子や液体肥料、農薬の散布には小型のヘリがぴったりなのです。小回りが利き、滑走路を必要としないヘリコプターは、送電線の巡視等の管理保安業務や、山間部や海上への人員や物資の輸送にも力を発揮します。
この中で特に有名なのがドクターヘリです。アウトバーンが有名なドイツでは、すでに70機以上が各地域に配備され、要請からわずか15分で医師が駆けつけることが可能になりました。この結果、交通事故による死亡者数は3分の1に激減したのです。ドクターヘリは2001年以降、日本でも導入が進められており、着実にその数を増やしつつあります。
優美な姿と静かな室内が自慢S-76
空中からゆったりと景色を楽しむ事を目的とする、遊覧用ヘリコプターとして有名なのがシコルスキー・エアクラフト社のS-76です。ほっそりとした鼻先を持つ優美な外見はもてなしにぴったりで、V.I.P.の専用機としても用いられています。
S-76は、シコルスキー・エアクラフト社が軍用機として開発した、UH-60Aで培われた技術を応用したツインタービンヘリコプターで、例えばメインローターは、UH60Aのそれを民生用のスケールに合わせたものです。S-76は1977年3月に初飛行、その後はバージョンアップを重ねつつ、派生機を増やしてきました。
1978年に発表されたS-76Aはアリソン・エンジン社(1995年にロールス・ロイス・ホールディングスの子会社化)の250-C30としています。このS-76Aはその後、換気装置などの安全面を見直し、エンジン出力を強化したS-76AマークIIとして再登場しました。そのさらに進化系となるS-76A+では、エンジンをチュルボメカ社のものに替え、燃費性能の向上とともに、巡行性やホバリング機能が強化されています。
第2の派生形となるS-76Bは、プラット・アンド・ホイットニー・カナダ社 のエンジン、PT6B-36Aを採用。トランスミッションの出力を上げ、高地、高湿地での性能向上となりました。
第3の派生形であるS-76Cのエンジンは、S-76A+で使用されたチュルボメカ社のアリエル1S1です。この新型エンジンにより航続距離が延び、また積載量もアップしました。 このアリエルシリーズによる性能向上がS-76C+、C++と続いた後、S-76B以来となるプラット・アンド・ホイットニー・カナダ社のエンジンを搭載したS-76Dが登場しています。
日本ではS-76Bが警察や消防の航空隊に、海上保安庁にS-76C~Dまでが採用されました。また、伊豆諸島間で島民の足として利用されている「東京愛らんどシャトル」もS-76Cを主力機としています。S-76シリーズの巡航速度は時速190~240km、積載量は1000~1500kgです。
ドクターヘリの代名詞BK117
BK117は、戦闘機の名前で有名なドイツのメッサーシュミット(現エアバス・ヘリコプターズ社)と、川崎重工業の共同開発により生まれました。日本初の国産ヘリコプターであり、その信頼性と輸送性の高さから多くの自治体で採用され、警察ではパトロールや犯罪者の追跡捜索など、消防では各種救助、救急活動にと活躍しています。
BK117は操縦など重要な部分の系統を二重化し、安全性の高さでも知られる機体です。何よりの特徴はキャビン両側のスライド式ドアに加え、後部にも観音開きのドアを備えていることで、広々とした室内と合わせて大きな輸送力を持っています。ストレッチャーに横たわった患者を、そのまま乗せて飛び立つことができるため、ドクターヘリの代名詞的な機種となりました。海外でも好評を得て、ヨーロッパ各国で450機を超える売り上げを見せています。
2016年には8世代目となるBK117 D-2が発売され、実機が「国際航空宇宙展2016」で展示されて話題を呼びました。D-2はコンピュータ制御式のエンジンを搭載し、パイロットの負担を軽減するほか、人命救助を主眼に置いた大幅な性能アップを実現した機体となっています。これは救助活動を行う現場からの要望に答えたものです。メインローターに動力を伝える役割を持つギアボックスの技術を向上させ、前モデルでは5分間だったホバリング性能をなんと6倍の30分にまで延長することに成功しました。
BK117シリーズの巡航速度は時速220km~250km、積載量は1000~1400kgです。
離着陸・耐久性能が優れたAS350
アエロスパシアル社により設計され、2018年現在ユーロコプター社が販売しているAS350は、フランス語で「リス」を意味する、エキュレイユと言う可愛らしい愛称を持ちます。その愛称通り小型で小回りが利き、また見かけによらない輸送力を持つため、農業用途から巡視、空撮まで、汎用ヘリコプターのなかでもとりわけ幅広い活躍を見せる機種です。
2005年には標準仕様でありながら、エベレストの山頂に着陸するという世界初の快挙を成し遂げ、全世界から拍手喝さいを浴びました。このチャレンジの発端となったのは、インド陸軍です。高地において優れた離着陸性能を持つ小型ヘリコプターを200機という大量調達計画を聞きつけたユーロコプター社は、彼らの技術の高さを示すべくこの離着陸記録に挑みました。
その結果は見事成功し、エキュレイユは不安定な天候とジェット気流という障害を乗り越えることで、極地での救助活動に適した頑健さと離着陸性能を持つことを証明したのです。なお、この挑戦のためのテスト飛行で、エキュレイユは高度9000mに9分26秒で到達するという記録も達成しています。
”エキュレイユ”AS350の巡航速度は時速180~220km、積載量は250~450kgです。
パイロットスクールの訓練用機
趣味の一つとして自家用操縦士免許の取得はもちろん、就職率の高い資格として事業用操縦士免許を目指す方にとって実際に広く運用されている機体での訓練は非常に重要なものです。
各パイロットスクールでは、そうした機材を訓練用に揃えており、実践的な技術を学ぶことができます。どんな機種があるのかについては、ホームページや入学案内に記載されていますので、あらかじめ確認可能です。
また、航空会社が直接経営しているスクールなら、免許取得後すぐに自家用機を入手することもできます。興味のある人は価格などについてもチェックしておくとよいでしょう。
パイロットスクール入学に備えよう
ヘリコプターには多くの種類が存在し、積載量や巡航速度を始めとして、それぞれ魅力的な特徴や性能を持っています。
優雅な趣味として、あるいは憧れの職業としてパイロットを志す方は前もって代表的な機種について知っておくことで、将来の具体的なイメージを広げやすくなります。
スクール入学前に、自分の目指す道でどのようなヘリコプターが使用されているかをチェックし、夢の実現に備えてください。